夏目漱石「行人」より
そこは高い地勢のお蔭で四方ともよく見晴らされた。ことに有名な紀三井寺を蓊欝した木立の中に遠く望む事ができた。その麓に入江らしく穏かに光る水がまた海浜とは思われない沢辺の景色を、複雑な色に描き出していた。自分は傍にいる人から浄瑠璃にある下り松というのを教えて貰った。その松はなるほど懸崖を伝うように逆に枝を伸していた。
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下り松は妹背山(観海閣のある小さな島)にありましたが、今は無くなっています。
この写真では妹背山は見えにくいので、鏡山から撮影したものを下に載せます。
位置的には西側から東側に、奠供山−鏡山−妹背山、の順になっています。
左端の小さな島が妹背山です。