夏目漱石「行人」より
宿の下にはかなり大きな掘割があった。それがどうして海へつづいているかちょっと解らなかったが、夕方には漁船が一二艘どこからか漕ぎ寄せて来て、緩やかに楼の前を通り過ぎた。
自分達はその掘割に沿うて一二丁右の方へ歩いた後、また左へ切れて田圃路を横切り始めた。向うを見ると、田の果がだらだら坂の上りになって、それを上り尽した土手の縁には、松が左右に長く続いていた。自分達の耳には大きな波の石に砕ける音がどどんどどんと聞えた。三階から見るとその砕けた波が忽然白い煙となって空に打上げられる様が、明かに見えた。
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塩竈神社の前の地点から西向きに撮影しました。
一行が泊まった宿は川の右側にあり、橋を渡って左側をずっと歩いて行くと方男波海岸に出ます。